はじめに
今日は、「スキーの上手さとは何か?」という、ちょっとムズカシイテーマについて考えながら、世界と日本の技術&指導の体系(上達への道筋、組み立て)の違いについて書いてみたいと思います。
最初に、この話をする上での前提をお話しします。面倒な方は読み飛ばして次のパートに進んで頂いても大丈夫です。
なお、すみませんが、話を単純にするためと、私自身にそこまでの知見がない事もあり、記事ではモーグルの技術の在り方については一切言及をしていません。予めご承知置き下さい。
上手いってナンダ?技術&指導の体系の必要性とは?
さて、皆さんは、スキーの上手さって何だと思いますか?
「どこでも滑れる」でしょうか、
「きれいに滑れる」でしょうか、
「速く滑れる」でしょうか。
この質問は、すごく難しい質問で、
特にスキーが上手くなってきたり、だんだんと教える機会が増えてくるほど難しく感じるものだと思います。
もちろん今これを書いている私自身にとってもです。
なぜなら、「上手さ」というのは色々な基準で決める事ができ、
人それぞれの目標や楽しみ方によって、目指したい滑りも全然違ったものになるからです。
加えて言えば、身体の動かしというのは、関節の数、動かせる方向、それらの組み合わせを考えると、それこそほとんど無限にあり、「どれが正しい、間違っている」というのは簡単には判断が出来ないというのもあります。
しいて言うなら、
私の思う間違ったスキーというのは、
- 思った時に思った様に曲がれない(止まれない)滑り方
- 転びやすい滑り方
- 怪我をしやすい滑り方
- 疲れやすい滑り方(すぐクタクタになって楽しめない滑り方)
この4つかなぁ、と思います。
極端なことを言えば、それぞれが楽しみたい範囲で、上の4つを守ってスキーが出来るのならば、姿勢も滑り方もひとそれぞれで良いジャン、とさえ私自身も心の中では思っていたりもします。
しかし!
「もっと上手く滑りたいなりたい」「もっと上手く教えたい」と考えた時には、そんないい加減では困りますよね!
もし、上手く、楽しく滑れるようになりたいと思って、せっかくスクールに申し込んだのに、インストラクターから
「スキーってね、大体で、適当で良いんスよ!お客さん曲がれるし止まれるし危なくないし疲れてもなさそうじゃないッスか!だから何も言うことないッス、ダイジョブっす!」
なんて言われたら、怒っちゃいますよね。
だから、教え方や上手くなり方というものには、ある程度基準を作って、道筋を作ってあげる必要がある訳です。
その基準と道筋が、指導法であり、技術理論であり、技術体系です。
軸とか骨みたいなものですね。軸が無いと物事ってシャッキリせずフラフラ、フニャフニャしちゃいますから。
技術のベースは競技か基礎か?
さて、お待たせしました。やっとここから本題に入ろうと思います。
技術上達の道筋を考えたときに、どこにベースを置くかという事について、私の考えをお話しします。
(たびたびで済みませんが、「世界と日本の違い」だけ手っ取り早く知りたいという人は次のパートまでスクロールしちゃって下さい。)
結論から言いますと、私は、技術のベースは競技(レース)の考え方を元にするべきと思っています。
それは「速さを競う事こそが至高!それ以外は邪道で間違っている!」
なんて事を言いたいのではありません。
私なりに色々勉強し、その上での考えがあってのことです。
もちろん、世界の強豪といわれる国がそうしているから、と言うのも大きいんですが…。
さて、はじめのパートで、私は、「間違ったスキー」というのがあるならそれは、
・思った時に思った様に曲がれない(止まれない)滑り方
・転びやすい滑り方
・怪我をしやすい滑り方
・疲れやすい滑り方(すぐクタクタになって楽しめない滑り方)
だと、お伝えしました。
私が思うには、
競技スキーが究極的に目指しているものの根っこには、これらの考えに近いものがあります。
と言うのは、競技スキーっていうのは、
・決められたところで、ちゃんと曲がる事
・スタートからゴールまで、キチンと滑りきる事
・身体に無理のかからない、合理的な姿勢で滑る事
・ゴールまで体力がもつ、効率的な滑りである事
という事を考えながら、全員が同じコースを滑ってタイム計測によって優劣を決めるスポーツだからです。
どうでしょうか??
競技とかレースとかタイムと聞くと、つい「目を三角にしながら限界ギリギリで滑ってる、自分とは関係のないスキー」と感じるかもしれませんが、
根源の4つの部分をみてみると、「ゲレンデで楽しく一日スキーを楽しむために必要な事や考え方」と同じなんです!
もちろん、硬く平らに整備された所で競う競技スキーと、柔らかかったり硬かったり平らだったり波打ってたりと色々な状況の中で滑るゲレンデでのスキーが全く同じとは、私にも言えません。
確かに言えません、が!
いわゆる基礎スキーが、
・思った時に思った様に曲がれる(止まれる)滑り方
・転ばない滑り方
・怪我をしにくい滑り方
・疲れない滑り方(一日中ゲレンデを楽しめる滑り方)
を実現するための手段として、競技スキーよりも優れているかと言われれば、それは絶対に違うと思います。
なぜかというと、基礎スキーでは、定量的な視点で技術の優劣を判断することができないからです。
いわゆるPDCA(計画→実行→検証→修正)のサイクルを回し、スキーヤーを上達に導くように、またはその為の技術&指導理論を整備し検証する事が出来るのは、タイムという絶対的な判断基準がある、競技スキーに軍配が上がります。
それが、私が技術や指導のベースを競技に置くべきだと主張する理由です。
世界と日本の技術&指導体系の違い
日本国内ではあまり知られていませんが、世界と日本では技術と指導の体系が全然違います。
世界では、競技(レース、いわゆるアルペン)の技術をベースに、技術や指導の道筋を一つにまとめて整備している国が多いです。
一方、日本ではどうでしょうか。
スキーに詳しい方なら、ご存じの方も多いと思いますが、我が国には競技と基礎という二つにそれぞれの技術&指導体系があります。
というよりも、競技については、正直に言って、指導者やインストラクター全員が共有出来るような、日本としての技術体系指導体系というものが定まっていない、というのが現状だと思います。これはとても残念なことです。
具体的にどういう事かをご理解頂く為に、イメージ図で表してみましょう。
まずは、世界のスキーです。こんな感じでしょうか。
図の見方は、
・ピラミッドの数が指導体系の数、
・上下方向が技術レベル
・横方向がスポーツ人口の多さ、
・色分けが、技術レベルごとの人口分布を表しています。
なんとなく伝わりますかね??
なお、図では国ごとの競技人口の差、それぞれの色で分けたレベルごとの人口の分布なんかは全く考慮してませんので、その辺は大目に見て下さい。
世界の強国では、競技(レース、アルペン)の技術をもとに指導体系を構築し、スキーを初めてする初心者から、世界で戦うトップスキーヤーまでが、大きなひとまとまりになった上達の道筋にそってスキーを覚え、楽しみます。
次に日本のスキーです。
日本のスキーはこんな感じです。
日本は二つのピラミッドが合わさった様な形になっています。
左のとんがったのが競技(レース、アルペン)スキーの体系、右の裾野の広いのが基礎スキーの体系です。
日本でスキーを覚えたい、楽しみたいと思ったときには、まずは基礎スキーの体系からのスタートとなります。ですので、イメージ図でも二つの山の裾野は基礎スキーが占めたカタチになっています。
これはなぜかというと、日本のスキースクールのほとんどが「基礎スキーの体系」を採用しており、また書店に並んでいる教本やDVDなども、ほぼ全てが「基礎スキーの上手い人」(図で言うと右の山の上の方に居る人達)が出しているものだからです。
そうすると、もしスキーがもっと楽しくなって「世界で活躍できるスキー選手になりたい」という気持ちに子供達がなった時には、そこでスキーを一度覚え直さないといけません。
それってすごくもったいないですよね。
さらに言えば、前のパート(技術のベースは競技か基礎か)で述べたように、競技のスキーとゲレンデで楽しむスキーには意外と多くの共通点があり、競技(アルペン、レース)の考え方を元にしたスキーを初めから覚えてしまっても何ら不都合はないのです。
もっと言えば、定量的な検証が十分にされていない基礎スキーよりも、競技スキーの方が、人に教える・人が上達するという部分では優位性があるとも言えます。
また、もっと大きな視点、スキー業界の発展という部分でも、このピラミッドが二つある状態は好ましくないです。
というのも、ピラミッドが二つに分かれてしまうと、競技人口が二分されてしまうからです。
「人が少ない」という事は、スポーツでは圧倒的に不利です。
戦える人自体も少ないですし、競争原理も働かないからです。
競技者よりも指導者の方が当然少ない訳ですから、当然指導者のレベルも上がりづらい訳です。また、競技と基礎を別物としてとらえますと、技術的な交流、議論もされづらくお互いがお互いの発展に寄与できません。
そうすると以下のような悪循環が起きます。
①世界で勝てなくなる
↓
②メディアへの露出が減る
↓
③スキーに興味がある人、やってみたいという人が減る
↓
④業界にお金が入らなくなる
↓
⑤もっと弱くなる
↓
⑥①に戻る
うーん、悪い事だらけですね!
ですので、私は、スキーを楽しむ個々人の上達を考えても、日本のスキー業界、産業としての発展を考えても、競技の考えをベースに技術や指導の体系を組み立てるという海外に習ったカタチにする事が、より良い未来を作るために必要だと考えるのです。
一日でも早く日本が舵をキチンと切り、そのような体制になっていく事を切に願います。
スキーを通じて、人々に活力を、子供達に希望を、そしてスキーに関わる仕事をしている全ての人が、自分のしている事に誇りと夢を持てるようになって、日本が元気になっていく事。
それが、私がスキーで実現したい夢です。