スキーに関心を持ち続けていると、雪のない時期にも
「オフシーズンの間に、何かできることはないだろうか」
と考えることは自然な流れでしょう。
その文脈で、インラインスケートはしばしば候補として挙げられます。
平地や斜面で、動く・滑る・曲がる。直感的にも、スキーとスケートは共通した部分が多くある様に感じられますし、インラインスケートを使ったスキーの練習方法は、雑誌や書籍、DVD、最近ではネット上でも紹介されています。
一方で、
「似ているからこそ、同じ感覚で練習してよいのか」
という疑問が生じるのも自然です。
また、このコンテンツを取り扱うメディアや人によって、立場が異なることが多い点も、この疑問を複雑にしています。
「オフシーズンのインラインスケートで、スキーが上手くなる」
という意見もあれば、
「インラインスケートでのスキーの練習は、かえって逆効果になる」
といった意見も同時に聞かれることがあるからです。
ですので、まずは、この記事ではそれを考えるための前提として、「スキーとインラインスケートの何が違うのか」を考えていきます。
似ている動きほど、前提条件の違いは見えにくくなります。
その違いを整理することが、本テーマを深く考えていくための出発点になると考えます。
なお、これらの整理を踏まえた上で「インラインスケートはスキーの練習になるか?」という疑問については、次の記事で改めて扱っています。
結論のみを知りたい方は、次の記事(インラインはスキーの練習になるか?
)をご覧ください。
スキーの技術要素について
スキーのためのインラインスケートという観点から違いを読み解くには、まずスキーではどんな運動要素、技術要素が必要とされているかを明らかにしておく必要があります。
スキーで使われる運動が明確になるからこそ、インラインスケートでの運動との違いが明確になってくるからです。
回旋・角付け・荷重
スキーでは長年にわたって「回旋・角付け・荷重 」という三つの要素が、基本的な枠組みとして使われてきました。
呼び方や整理の仕方は、国や時代・教程によっても変化していますが、スキーの動きやコントロールを、この3つの観点から解釈・説明する点は、多くのモデルに共通して見られます。
この記事では、その中でも特に、スキーとインラインの違いが顕著に現れる回旋と角付けに絞って見ていきます。
回旋
回旋は、単に身体をひねる動作そのものというよりも、スキーの向きと、進もうとする方向の関係をどう作るかをコントロールするための概念です。
スキーでは、板がどの方向を向いているかと、身体がどちらへ動こうとしているか、この二つの関係が、ターンの始動 、舵取り 、仕上げ に強く影響します。
回旋は、スキーでターンを描くのに重要な「ズレ 」と深く結びついており、スキーヤーの進行方向に対してどのように板を振って、雪をスキー板にぶつけるかを決める技術(迎え角 )です。

図の赤い矢印は、雪が板にぶつかってくる方向と量を概念的に示しています。
スキー板の向きとスキーヤー進行方向(雪が向かってくる方向)に「角度のズレ」を作り、このズレをコントロールすることが、回旋の本質です。
角付け
角付けは、単に板を傾ける動作ではなく、スキーのエッジ を雪面に立てて、雪上に足場を作るための概念です。
板をどの程度傾けるか、エッジがどのように雪面と関わるか。これらによって、ターン中のコントロール性や、雪面から受ける反力が大きく変わります。
角付けは、単にスキー板を傾ける動作そのものを指すというよりも、エッジを通して雪面にどのような足場 を作るかを決定します。

エッジが雪面にどう「角付けされるか」で、次のような違いが生まれます
- 雪面にどの程度エッジが食い込むか
- 食い込ませたエッジが雪をどのように変形させるか
- その結果、雪からどのような支持や反力を受けるか
角付けは、「横にずれるか」「曲がるか」という表面的な違いだけでなく、スキーと雪の間でどのような力のやり取りが成立しているか(足場が形成されるのか)を左右します。スキーと雪面の関係性を読み解く、基準点となる技術要素です。
「回旋」はスキーとインラインでどう違うか
回旋と角付けという枠組みが分かったところで、それぞれの要素が、スキーとインラインでどう違うのかを比較します。まずは回旋から見てみましょう。
スキーの回旋は
- 迎え角を多彩にコントロールでき、さまざまなターン弧 やシュプール を描ける
- 板がフラットな状態では比較的自由に振れるが、角が立っている状態では特定の方向にしか動かせなくなる
- 静止時や低速でも、ある程度自由に回旋できる
インラインの回旋は
- 基本的にウィールが向いている方向にしか進まないため、スキーと同じようにはスケートと路面の間に迎え角の関係を作ることができない
- ウィールは路面に対して常に一定以上のグリップ力を発揮するため、直立していても、スケートを傾けていても、接地している限りは自由に振れない
- 静止時や低速でも、ウィールの摩擦が邪魔をするため、スキーのような回旋はできない
つまり、スキーが「板を振って雪を削る、ズラしながらターン弧を描く」ことができるのに対し、インラインは「ウィールが向いた方向に進む」という根本的な違いがあります。
「角付け」はスキーとインラインでどう違うか
次に、角付けの違いを見ていきます。
スキーの角付けは
- 適切な方法と運動であれば、角付けを深めるほどグリップ力も上がる
- 角の立て方を調整する事で、雪面を多彩に変形させる(鋭く切り込む、雪を削り取る、さっと掃き出す)ことができ、状況に応じた足場を形成できる
- フラット・やや角付け・強い角付けの違いを、振動・圧・音で感じ取り、調整することができる
インラインの角付けは
- 基本的には傾きを深めるほどグリップは不安定になっていく(スキーと逆)
- 傾きを調整してもグリップ感覚はほぼ一定で、あるところを境に急にスリップし始める(スキーの様なズレではなく、スリップという感覚)。
- フラット・やや角付け・強い角付けで、滑走感覚があまり変わらない。
スキーが適切な運動さえすれば「角付けを深めるほどグリップが増す」のに対し、インラインはどのように適切に動いたとしても「傾けるほど不安定になる」という、正反対の性質を持っています。
ここまでの整理
回旋と角付けの両方を通して見えてきたのは、スキーとインラインの間にある、いくつかの根本的な違いです。
最も大きな違いは、「ズレ」と「グリップ」の関係です。
スキーは、板を振ってズレをコントロールし、角を立ててグリップを得る。この二つを使い分けることで、さまざまな滑りが成立します。
一方インラインは、ウィールという道具の性質上、常にグリップが働き、ズレを自由にコントロールすることができません。さらに、傾けるほどグリップが失われるため、スキーとは逆の感覚になります。
加えて、スキーでは板の状態(フラット・やや角付け・強い角付け)を足元の感触・音・圧で感じ取れますが、インラインではこの感覚の違いがほとんど感じられないという違いがあります。
次の問いへ
この記事では、スキーとインラインスケートで何が大きく異なっているかを見てきました。
今まで見てきた違いを踏まえると一つの疑問が浮かびます。
「これだけ違うなら、インラインはスキーの練習にならないのでは?」
確かに、そう感じるのは自然なことです。
しかし、同時にこうも考えられます。
「完璧にスキーと同じ感覚を再現できるオフトレーニングは、そもそも存在するのだろうか?」
「欠点があるからと言って完全に練習の選択肢から排除することが、技術の上達に本当にプラスになるのだろうか?」
次の記事では、この内容を踏まえながら、インラインはスキーの練習になるか?についてもう一歩踏み込んで考えていきます。


