本記事では、世界各国のシュテムターン を紹介して行きます。
シュテムターンという一つの技術が、地域ごとに国ごとにどのぐらい違いがあるかを見ながら、その国の技術の背景にある技術や指導方法の違いや、文化的背景の輪郭を探っていきます。
なお、本記事は、シリーズ
『シュテムターンは必要か?』3部作の第3部として、
これまでの議論を踏まえ、
世界各国のシュテムターンを俯瞰する視点から整理したものです。
記事単独でも読んでいただけるように構成していますが、
あらかじめ第1部・第2部をご一読いただくことで、
本記事の背景や問題意識をより立体的に捉えていただけるかと思います。
関連記事1:『
シュテムターンは必要か?その1 ― 不要論の背景と、現代における位置づけの整理 ―』
関連記事2:『
シュテムターンは必要か?その2 ―日本のシュテムターンはどうあるべきか―』
各国を見る前に、ひとつだけ
世界各国のシュテムを見ていく前に、一つだけ、共通して見られる傾向に触れておきます。
近年のプルークボーゲンやシュテムターンは、できるだけスタンスを広げすぎず、そのままパラレルスタンスへ移行しやすい形で組み立てられていることが多くなっています。
これは、開き出しを大きく使う従来型のシュテムが、状況によっては次の段階への移行を難しくしてしまうことがある、という経験則が世界的に研究・蓄積・共有されてきた結果と見ることができます。
※ 以降の各国紹介では、この点を念頭に置いて眺めてみてください。
オーストリア
オーストリアの基礎シュテムターン(プルークシュトイアン)
オーストリアの滑りは、シンプルでコンパクトな動きが最大の特徴です。
まずは全体の流れを眺めてみてください。
その一連の動きは、一見するとロボットのようにさえ見えるかもしれません。
しかしこれは、硬く平坦なアルプスの斜面を強く想定し、また、長いスキーの伝統と研究の中で結晶化した、明確な「動作」と「型」の連続が、その様な印象につながっていると考えられます。
滑りの組み立てとして、オーストリアのスキーはターンの局面 を3分割するスタイルです。その中でも初級の段階では、特に強く谷回り・山回り の区間の役割の差を意識します。
谷回りでは、姿勢を高く・前へ大きく動かし、板の先落としを両足で行います。
山回りでは、外足への荷重 を強めながら確実にスピードをコントロールします。
この文脈で見ると、シュテムターンは単にパラレルターンへの練習というよりも、「我々はターンのどの局面で、身体のどこを使うのか」を明確に学習するためにデザインされているように見えます。
フランス
フランスの基礎シュテムターン(ヴィラージュエレモンテール)
フランスのスキーは、全体的にのっぺりとして見える点が一つの特徴と言えます。
その動きは、もしかするとオーストリアよりもさらに異質なものに見えるかもしれません。
これが世界トップクラスの国のスキーのお手本の滑りなのだろうか…と。
しかし、これもまた、世界のスキーの一面です。
他国で主流となっている理論や技術体系を十分に理解したうえで、自国の文化や身体観に照らして取捨選択する。その距離の取り方が、フランスという国のスキーの特徴です。
滑りの組み立てとしては、身体全体の一体感を常に重視し、動作を細かく分解せず、全身が一体となって調和して動き続けているかどうかが見られます。
また、フランスのスキーではデラパージュ(横滑り)が重要な要素として扱われます。横滑り
は、特別な局面で使われる技術というより、方向やスピードを調整し続けるための基本的な運動として、シュテムターンの中にも自然に溶け込んでいます。
アメリカ
アメリカの基礎シュテムターン(ウェッジクリスティ)
アメリカのスキーは、これまでの2国と比べると、「明確な型」が見えにくい印象があります。感覚的には「こういう風に滑っている人、日本でも普通に居そうだな…。」という感じです。
実はそれこそが、アメリカのスキーの特徴である、というところに世界のスキーを比較して見ていく面白さがあります。
アメリカでは、幅広い環境でも通用する「走破性の高い」スキー技術が重視されており、シュテムターンについても、初心者にとっての実用性と習得しやすさを重視し、型や姿勢を制限しすぎない傾向が見られます。
関節の動かし方など、各部の身体の動きを見ていくと、実はオーストリアと行っていること自体は、本質的に大きく異なるわけではありません。しかし、スキー技術を「型」としてではなく、「走破するためのツール」の一つとして捉え、形にこだわりすぎずに要点を押さえ、あとは滑り手それぞれの判断や自由に委ねていく。そのあたりに、アメリカらしい指導設計の質実剛健さが感じられます。
日本
日本のシュテムターンの特徴を一言で言うなら、「安全に滑る」ということを「型として的確に表現している」という言葉になるかと思います。
舵取り中に顕著にみられる、広く開かれたプルーク姿勢と制動に最適化させたやや後ろ乗りのポジション、丁寧で確実な切り換えでの上下動、これらは初心者にどのようにしたら「安全に減速できるか」「安全に方向転換できるか」「落ち着いて切り換えができるか」を伝える為と見ることができます。
これは、社会全体の安全性や確実性を重視するニーズだけでなく、日本のスキー場の環境(海外と比べると小さな規模感、平らなところが少なくすぐ急になる山の形状、コースが狭い所では人が集中しやすい)からみたニーズに適した、ある種での合理的な技術のモデルと言えます。
小結 -雪の軌跡としての整理
日本も含め、4か国のスキー技術をこの記事では見てきました。
世界の中に当てはめて日本のスキーを改めて見てみるということは、正解を探すためではなく、自分たちが「どのような地図を使ってスキーを探訪してきたか」、そしてそれを「どのような文法で読み解いてきたか」を別の角度から見つめ直すことでもある様に思います。
そのように考えてみると、シュテムターンという一つの技術も、これまでとは少し違った姿で見えてくるかもしれません。
次の問いへ
ここまで見てきたものを振り返ると、さらにまた新しい疑問が湧いてきます。
・世界の横滑りはどうなっているのか?
・技術は学ぶ?身につける?
(日本の習い事的感覚と、海外のアクティビティ的感覚の違い)
・自分の滑りは、どの国の滑りの「文法」に近いのか?
この続きはまた、別の記事で考えていきたいと思います。
※本記事は、公開後の反応や議論の蓄積を踏まえ、内容の整理および表現の一部を見直しています。取り上げている論点や構成の方向性に変更はありません。


