シュテムターンは必要か?その3です。この記事で、今回のシリーズは一旦最後となります。

1番目と2番目の記事は以下のリンクから読めます。まだの方は是非どうぞ。

シュテムターンは必要か?

シュテムターン不要論はご存じでしょうか。 スキーの上達(特にプルークからパラレルターンにレベルアップにする段階)においては、シュテムターンはデメリットが大きいの…

シュテムターンは必要か?その2

シュテムターンは必要か?の記事その2です。 今回の記事では、日本と海外のシュテムターンの違い、その目的や狙いについて具体的に説明していきます。 1つ目の記事は、こ…

さて、このテーマの冒頭から「シュテムターンは必要」というスタンスでずっと話を進めてきました。前回の記事では、日本の基礎シュテムターンと海外の基礎シュテムターンとの間で、技術的な組み立てに違いがある事が分かりました。

そして、今回はその話のまとめとして、今まで見てきた海外との差を踏まえた上で”日本のシュテムはどうあるべきか?”という内容についてさらにお話ししていきます。

どうあるべきか?

2014年の教程の改訂は、海外で標準的に実施されている指導法に日本の指導法を近づける事がコンセプトの一つとなっていました。

引用・出典:スキー指導と検定 2014年度(全日本スキー連盟 / スキージャーナル 2013年)

海外の動向、スキーの強豪国である欧米諸国では競技の技術とゲレンデスキーの技術・指導は1本化・整合性が取られている、という背景にならって、スキー指導法を改定するという主旨です。

その様な意味では、この時の教程の改訂は、今までのプルーク偏重から脱却し海外の指導法にならってプルーク、シュテム、横滑りという3つを並列させる指導を提唱したという、変化に向けて”一歩を踏み出す”という意味で非常に画期的なものでした。

(また、ゲレンデを滑るスキーヤーを見ていて、滑りがより安定感のあるものに変化してきている事も実感しています。)

しかし、前回までに見てきたように、シュテムターンの運動の質や運動の組み立てなど、細かい部分を比較してみますとまだまだ海外の技術の理解・解釈とは差がある事が分かります。

この差は、海外の基礎シュテムは過去の議論を経て改良されており、プルークボーゲンとパラレルターンとの橋渡しとなるようにデザインされているのに対して、日本のシュテムは、教程の枠組みは海外を参考にしたものの、その中の細かな部分や滑りの解釈については旧来のシュテムターンの考え方をそのまま流用したために生じたものと思われます。

つまり、教程が改定された事とシュテムターンが復活した事はゲレンデのスキーヤーの滑りの向上に良い影響を及ぼしたが、スキー技術論・指導理論についてはまだまだ良くしていく余地があるという事です。

このような状況を確認したうえで、一旦、”どうあるべきか?”という問いに対して端的に答えるとしたら、私の意見としては以下のようになります。

  • 海外の基礎シュテムターンを輸入したい
  • シュテムよりもプルークターンを無くしたい
  • シュテム以外の練習をもっと増やしたい

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

基礎シュテムターンを輸入する

パラレルターンへの道筋としてのシュテムターン、基礎シュテムターンについては前回の記事でみたとおり、日本と海外では以下のような違いがあります。

日本海外
操作開き出し捻り
スタンス広め狭め
ブレーキ要素強い弱い

この違いを解消するのに一番手っ取り早いのは、上の表の日本の項目をすべて海外の項目にしてしまえばいいのです。基礎シュテムターンの考え方をそのままコピー(輸入)してしまうのです。

”捻り、狭め、弱い”が分かりやすいアメリカの基礎シュテムターン

これによって、パラレルターンに繋がりやすい、プルークとパラレルの橋渡しとして機能しやすいシュテムターンになります。

特に

  • 身体の真下で外足を捻る
  • 狭いスタンスを維持する

これらの二つはパラレルターンに近い感覚でシュテムターンをするために、特に重要です。

ただ、3番目のブレーキ要素については、慎重に考える必要があると考えています。
日本のゲレンデの環境は、斜度の変化が大きく、コースの幅は狭く、混雑している場合が多く、それを考えれば、制動を重要視するのは至極当然であるからです。
ですので、基礎シュテムターンを海外からそのまま輸入して指導に盛り込む場合は、”運用方法”も常にセットで考える必要があるでしょう。

基本的には、すぐに止まれる平らな斜面で練習するという事と、急斜面を滑る事に備えて斜度を上げる前から斜行(斜め前横滑り)も合わせて使う様にするという事がポイントだと考えます。

これによって、ターンだけでなく、ターンの繋ぎ目である斜面を斜めに横切るときも雪を削ってスピードをコントロールできるようになります。このようにいろいろな局面で雪を削る&雪とコミュニケーションを取る感覚を養うことで、足の開き出し(プルーク)に頼らないスピードコントロールの感覚が身につき、斜度への対応力が育っていきます。

プルークでの制動よりも体力の消耗が少なく済みますし、移動の距離も稼ぎやすいテクニックです。

さて、また本題に戻りますが、各国の基礎シュテムターンは、オーストリアは別として、パラレルターンとの技術の整合性を意識することで、実態としてはシュテムターンよりはプルークターンに近い動きになってきているように思います。

アメリカの基礎シュテムターン(ウェッジクリスティー)

フランスの基礎シュテムターン(ヴィラージュエレモンテール)

逆に、日本で言われているようなプルークターンは現在は世界の教程では見られず、かなり異質なものに感じます。

プルークターンを無くしたい

日本では、プルークボーゲンがプルークターンという形態を通じてパラレルターンに進歩するという道筋(技術解釈)が1995年ごろから提唱され始めました。そして、30年経った今でも現行の教程でも残っていまして、ちょっとした日本のスキーの伝統の様になってきています。

ただ、前述の通り、実はこのプルークターンは現在の世界各国の教程ではあまり見られない特殊な操作で、”シュテムが必要か不要か”というよりも、むしろプルークターンがある事の方が私としては大きな問題だと思います。

という訳で、雪の軌跡としては”プルークターン不要論”を提唱したいと思います。

プルークターン(滑走プルーク)の例

引用・出典:資格検定 受験者のために 2022年度(公益財団法人 全日本スキー連盟 / 山と渓谷社 DVDより抜粋)
※本動画は上記著作物の抜粋情報を、引用の公正な慣行に基づき、批評・研究の用途で利用するものであり、本アップロードにいかなる団体や企業の著作権についても侵害する意図は一切ありません。

最初の2ターンがいわゆるプルークターンです。

プルークターンの特徴としては、

  • 内スキーはフラットにし支えとして活用
  • 内脚のしゃがみ動作で外脚のストロークを確保する
  • 外スキーを側方に押し出すことでエッジングを強める

教程中の言葉の上では、外スキーを主体に雪の抵抗を捉えてバランスを取ることが強調されていますが、実態としては、内足にある程度の体重を預けないとこの姿勢でバランスを取る事は不可能であり、内足への荷重意識が必要な操作と言えます。

他国が、

  • なるべく内足への荷重を減らしていく
  • 腰の真下から板をなるべく離さない

という点を重要視してプルークからパラレルへの道筋をデザインしている事を考えると、やはり差が大きいことが分かります。

今までの話を踏まえて、私が感じる所としては、我が国のスキーにおいては、まだまだプルークという技術についての理解や分析が足りていないのではないかと思います。

もっと正確に言いますと、プルークボーゲンとパラレルターンの技術的な共通点は何か?パラレルの上達に繋がる様なプルークをするためにはどのような操作を練習するのがよいのか?

という事に対する理解です。

プルークとパラレルの操作の共通点についての分析・理解があまりできていない(もしくはその理解が世界の標準的な理解とズレている)ので、二つの技術の橋渡し・通過点に位置するシュテムについても運用方法に海外との差が出ているように思います。

シュテムターンの動き・スタイル・操作を、海外の方法に合わせていくことももちろん大事ですが、このような問題の本質、より深い原因を探っていく心を忘れずにいたいものです。

そういう意味では、特にプルークターンは、海外各国の滑りの発展の説明から見ても異質で、内足へ積極的に荷重を残しながら外足を体から離す操作はあまり良い技術の解釈・考え方ではないように思いますので、無くしてしまった方が良いでしょう。

(プルークターンでみられる傾きの強い操作は、どちらかというならば、フランスの基礎シュテムに似た動きとも見る事が出来ますが、フランスも含め海外では、なるべく板を体の下に置きながらコントロールしようとする傾向があるので、外足、外スキーを体の横と外へ押し出して雪面からの抵抗を求めに行く日本の操作はやはり異質とみるのが妥当だと思います。スキーの強豪国ではどこも初歩の指導でこのような操作をメインに据えている国は私が調べた範囲では無いです。)

また、プルークからパラレルへの上達の道筋を、3つに分けて学習者の好みや癖に合わせて指導が展開できる”幅”を公式に定義したことは、世界に追いつくために非常に大きな一歩ではありましたが、3つの滑り方の特徴を際立たせようとしすぎて、かえって、海外の指導理論の根底にある”パラレルターンに共通の技術を指導の初期から様々な方法で使うことで、スムーズな上達を促したい”という、本質をうまくとらえられていないように思います。

日本の現行の教程の問題点としては、

  • プルークターンは、内傾を強調しすぎて不自然な内足荷重と外足の蹴りだしがみられます。
  • 基礎シュテムターンでは、シュテム動作を強調するあまりに、海外各国で共通の狭いスタンス、捻りを使った外足操作という重要なポイントを見逃しています。
  • 横滑りは、初心者向けレッスンでの活用の道筋をうまく示せておらず、上級者だけに向けた練習になってしまっています。(つい最近まで1級の検定種目に横滑りがあった事からも分かります。)

実際には3つの方法を使ったとしも、学ぶ事は同じでいいのです。プルークからパラレルに至る過程で海外で重視されるのは外脚の内旋操作と的確な荷重姿勢です。

シュテムターンだけじゃなく

今まで、見てきたものは、パラレルターンへ至る上達の過程で使う”基礎的なシュテムターン”で、それについては色々と考えを変えていくべきところがたくさんありました。

一方で、中上級者向けの練習方法としてのシュテムターンについては、海外の教本でも、我々がイメージするようないわゆる普通のシュテムターンがよく登場します。
やはりシュテムターンは、スキーの上達に役立ついい練習方法なのです。

なので、すでにパラレルターンを習得している人、2級をすでに持っている、1級をすでに持っているような人でも、ぜひ継続してシュテムターンを定期的に使ってみて欲しいと思います。

私としては、シュテムターンを無くすどころか、逆に日本はもっと足を踏みかえたりジャンプしたりする様な滑り方をどんどん練習に取り入れていくべきではないかと考えています。

と言いますのは、海外では、整備された斜面だけでなく色々な斜面状況を滑る事を想定していることもあって、とっさの対応力を高めるようなバランス強化の練習方法がシュテムターン以外にもたくさんあるからです。

日本のスキー場では、整備された斜面を滑る事の方が多いですが、コースの狭さや人の混雑具合を考えると、とっさの対応力が高めておく事には大きな利点があります。

シュテムはまだ序の口?色々な動きに挑戦してみよう!

スイスの動画です。しっかりとしたバランスで板に乗りつつ、かつ雪をしっかりと削って足場を作らないと、このような動きはできません。

シュテムターンも、板を持ち上げたり足を開いたりして、バランス感覚や適切な位置に板をセットする操作感覚を強化する練習ですので、これらの練習とは共通点がありますよね。

SIAの取り組み

今まで解説してきたのは、SAJ(全日本スキー連盟)から見た話です。日本には、SAJの他にもう一団体、SIA(日本プロスキー教師協会)という団体もあります。この団体はSAJとは別の団体であり、自分たちで独自に編纂した教程を持っています。

たまに、SIAは国際団体であるISIA(国際スキー教師連盟)に加盟しているので、SAJよりもSIAの方が国際的な基準に合った指導をしているという見方を聞きますが、海外の教程と比較して見て欧米諸国のスタンダードと比べてどうか?という観点で見た時の私の感想としては、SAJとそこまで抜本的には変わらないというのが実感です。

ただ、2020年に改定された教程では、オーストリアやアメリカなどの海外の教程の良い部分を積極的に取り入れて教程を改善させていこうという意欲が紙面から感じられました。

特に、シュテムターンでは、動画の見本は明確にオーストリアスキーの影響が感じられるものでしたし、解説も、以前は”テールの開き出し操作”として解説されていたシュテムの動きの解説が、捻り、ピボットと変更、明記されており、このあたりにも他国の技術の要点をしっかりと分析・研究したうえで教程を変えていこうという意思が伝わってきます。

日本(SIA)の基礎シュテムターン(2020版)

引用・出典:SIAオフィシャルメソッド(公益社団法人 日本プロスキー教師協会 2020年/ 芸文社 DVDより抜粋)
※本動画は上記著作物の抜粋情報を、引用の公正な慣行に基づき、批評・研究の用途で利用するものであり、本アップロードにいかなる団体や企業の著作権についても侵害する意図は一切ありません。

オーストリアの基礎シュテムターン

よく似ていますね。スキー技術の研究が進んでいる国の滑りを参考にした滑り・技術説明・解説が一般の書店で購入でき日本語で読めるというのは嬉しいことです。

ただ、前回、2012年版には記載があった、横滑りを活用した指導展開が削除されたのは残念に思います。

横滑りの指導への積極的な活用はフランスが発祥ですが、その有効性は世界各国で広く認められ大体どの国の教程でもベースの技術として解説がある、スキーの上達に欠かせない非常に重要な技術だからです。

また、プルークボーゲンやシュテムターンをオーストリアの技術体系にせっかく近づけたのに、逆にオーストリアの技術理論の中核を担う”アルペン滑降姿勢”(外向傾姿勢)の解説がより少なくなってしまった事も少し残念に思います。とても重要な概念ですので解説や紙面スペースは減らすのではなく増やした方が良かったと個人的には思います。

今後の改定に期待したいと思います。