スタンス用語は時代とともに変わってきた
レッスンを受けているときや、友人と滑っているときに、スタンス幅についてアドバイスを受けたり、話題になったことはありませんか。
もしかすると、このように感じたこともあるかもしれません。
「いろいろな用語があって分かりづらい」
「前に聞いた説明と、少し違う気がする」
それは、気のせいではないかもしれません。実は、教程や指導書によって、また時期によって、スタンスに関する用語の定義は変化してきました。
その結果、現場での言葉の使い方にも差が生じ、同じ言葉でも指している範囲が異なることがあります。
本記事では、こうした変化について「良い・悪い」と評価するのではなく、その経緯や背景を整理してみたいと思います。
4種類での分類
もともと、スタンスを厳密に区別するようになったのは、確認できる範囲では2000年ごろからです。
当時の日本の指導体系では、ワイド/オープン/ナチュラル/クローズドという4つのスタンス用語が、明確な区分として整理・定義されていました。
これらは比較的厳密に区別されており、次のように定義されていました。
- ワイドスタンス
腰幅より広く足を開いた構え - オープンスタンス
腰幅に足を開いた構え - ナチュラルスタンス
スキーを履いて自然に立った時ぐらいの構え - クローズドスタンス
足を揃えた構え
このように見ると、かなり細かく正確に決められていたことが伺えます。
現場での用法の変化
一方で、現在の現場の感覚としては、この4つの区分すべてが同じ重みで使われているとは言いにくいように思われます。
実際のインストラクター同士の会話や指導の場面では、ワイド(オープン)/ナチュラル/クローズドという3区分で語られることが増えているように見受けられます。
4種類での区別と比べると、オープンという言葉がワイド側の感覚として扱われる場面が多くなり、ナチュラルとされるスタンス幅も、以前よりやや広くなったような印象があります。
そうなった理由
ここからは、この変化の理由を考えていきたいと思いますが、ここから先はあくまで「雪の軌跡」としての整理・考察になります。
なぜかと言うと、現在の教程(2024年時点)を参照すると、スタンス幅に関する記載は「ワイドスタンス」のみとなっており、用語の定義がどのように変遷してきたのかについての説明は残念ながら見当たらないからです。
そのため、ここからは推察も含めた説明にはなりますが、言葉の使われ方が変化してきた理由について考えてみたいと思います。
時代背景
スタンスについての区分が整理され出したのは、資料の参照ベースでは1994年の教程が初で、その時は、3つの区分、ワイド、オープン、ナチュラルとして説明されました。それがさらに細かく、4つの区分で説明されたのは2000年代の教程からです。この90年代後半から00年代の前半、これはカービングスキーが本格的に普及し始めた時期とおおよそ符合します。
それまでのスキーは、サイドカットがほとんどなく、旋回性が低かったために、片足に全体重を預けてスキーをターンさせる技術が主流でした。そのため、必然的にターンは外足一本で滑ることが多く内側の足は浮かせることとなり、浮いた足が邪魔にならないよう、外側の足にピッタリとそろえて滑るスタイルが主流でした。
それに対して、カービングスキーでは、スキー板自体が今までより強い旋回性を持っていたため、外足だけに体重をかけるのではなく、ある程度両方の足に荷重を分散した方が、安定して滑れることが明らかになってきました。1990年代後半から2000年代前半の技術のトレンドはそのように理解することができます。
片足に全体重を預ける場合は、左右の脚を揃えていた方が効率的でしたが、両足を使う場合は、少し幅があった方が、二つの足を別々に使えて便利ということになります。
それまでは、上級者=脚を完全に閉じて滑れる人、初中級者=脚が揃いきらず開いて滑る人というイメージが定着していたという風潮も、あったように思います。
しかし、当時の最先端のスキーでは、「足を開いて滑る」必要が段々と高まってきていた。
これは現場の感覚として、レッスンで指導する側も顧客の受け取り方としても、容易には浸透しない概念であったことは想像に難くありません。
そのため、閉脚を基準として「どの程度まで足を開いてよいのか」を細かく言葉で整理することで、心理的なハードルを下げる狙いがあったのではないか、と雪の軌跡では考察します。
近年なぜ変わったか
カービングスキーが一般に本格的に普及し始めた年を仮に2000年とすると、今年は2026年、すでに25年以上の年月が経とうとしています。
当時、カービングターンというものが世界選手権や技術選のトップスキーヤーだけの技術だった状況から、現代では、道具の進歩と普及により一般のゲレンデスキーヤーでもある程度の練習さえすれば、カービングターンが習得できる世の中になりました。
当時は、「足を閉じてこそスキー」と思っていたスキーヤーも十分に道具に慣れ、また2000年に生まれたスキーヤーはすでに25歳と、若いスキーヤーはほとんどが「カービング・ネイティブ」とでも呼べるような世代です。
90年代後半から00年前半の当時は、市場の感覚や指導の理論としても「閉じている脚」がスタンダード、それを基準にどれだけ開いているかを考えていたところから、今日では「開いている脚」こそが当たり前、スタンダードとなっています。
これにより当時の「ナチュラルスタンス」は「クローズドスタンス」となり、当時は少し広めとして理解されていた腰幅の「オープンスタンス」が現代の「ナチュラルスタンス」となったと解釈すると筋が通ります。
そしてオープンという言葉は、その語感自体に「開いている、広がっている」というニュアンスがあるので、現代の感覚からすると、ナチュラルより開いている状態として、「ワイドスタンス」とほぼ同義として認識されるようになってきたものと考えることができます。
小結 ― 雪の軌跡としての整理
雪の軌跡では、そのような経緯を踏まえた上で、この記事で、「どちらが正しいどちらが間違っている」というようなことを述べるつもりはありません。
ただ、サイト内での記事で用語を使う場合、どの尺度で書いているのかということは明らかにしておく必要があると考えています。
雪の軌跡としては、言葉の原義やその経緯を大切にしたいとは思いますが、現在現場で主流となっている以下の3区分のスタイルを、雪の軌跡の練習ドリルや技術解説での常用の用語の範囲として使っていきたいと考えています。
- ワイドスタンス(オープンを含む)
腰幅よりやや広い~肩幅程度のスタンス - ナチュラルスタンス
腰幅程度のスタンス - クローズドスタンス
両脚が揃っている、もしくは完全に閉じているスタンス
これは、過去の用語の整理や定義を否定するものではなく、現在の語用に合わせた編集判断としてご理解いただければと思います。
雪の軌跡としては、用語は「正すもの・間違っているかチェックするもの」ではなく、「使いやすく整理していく」べきものとして考えています。
補足として
本サイトの用語解説の記事では、各用語(ワイド、オープン、ナチュラル、クローズド)の原義や歴史的な定義をベースに言葉の説明をするようにしています。
なぜかというと、現在、雪の軌跡としてスタンス幅の明確な定義を参照可能な書籍は2000年、2003年、2009年の物のみであり、且つ、雪の軌跡では、用語の意味の幅や揺れ、使い方の変化もなるべく収集し記録し参照可能な状態で後世に残していきたいと考えているからです。
※前述の通り、現在の教程では、スタンス幅の用語解説はワイドスタンスのみとなっており、オープン・ナチュラル・クローズドスタンスについては、最新の定義を参照することができません。(2026年現在の情報)
しかしこれも、もしかすると団体としてもその用語が時代の役割を終え、意味としての変化が起こりつつあるという状況を踏まえて、未掲載を判断したのかもしれない、と考えてみるのも面白く感じます。
次の問いへ
では、スタンス幅は「広い・狭い」という区分だけで捉えれば十分なのでしょうか。
雪の軌跡としては「現代のスキーは、狭いスタンスから広いスタンスへと変わった」と、ただ単純に言い切ってしまえるものではないように感じています。
それらについては、また別の記事で整理していきたいと思います。(記事のタイトルや方向性については、現在検討・準備中です。)

